本日は「睡眠と記憶の関係」ということについて、
- 睡眠で記憶が定着することを示すデータ
- 睡眠不足で記憶が悪くなる仮説
- 眠れないのは忘れるため(?)
などについてご紹介していきます。
記憶力を高めるために睡眠とどう付き合えばいいのかご理解いただけるはずです。
※こちらのページ『睡眠不足の悲惨すぎる症状一覧と、改善のための方法』で睡眠不足による心身へのデメリットの総まとめをしました。睡眠不足が気になる方はあわせてご参考にしてください。 |
Contents
1. 睡眠で記憶が定着するメカニズムは不明
実のところ、どのようにして睡眠中に記憶が定着しているのかは、まだ不明なままです。
しかし、睡眠により記憶が定着するということは、もはや紛れもない事実として多くの研究で報告されています。ただ、そういう話になると「記憶の定着には深い睡眠が大事」と言われますが、これにはやや語弊があります。
どういうことかと言うと、記憶の種類によって浅い睡眠のときに定着したり、レム睡眠時に定着したりといったように、必要な睡眠がやや異なるからなのです。
なお、記憶を細かく分類すると以下のようになります。
例えば、単語などのような宣言的記憶であれば、いわゆる深い睡眠(徐波睡眠:ノンレム睡眠の第3・4段階)のときに再処理されて定着すると言われています。
しかし例えば、体で覚えたことのような運動技能は、いわゆる浅い睡眠(ノンレム睡眠第2段階)のとき、見たものを解釈する認知技能は、いわゆる深い睡眠(徐波睡眠)とレム睡眠のときに再処理されて定着が促されると報告されています。
1-1. 睡眠で学習記憶が定着されることを示したハンブルグ大学の研究データ
これを裏付けるデータとして有名なのが、ハンブルグ大学の研究データです。
実験内容は、「鳥 – 鷲」のような対になった単語リスト(計24対)を記憶し、「鳥」と問われたら「鷲」と答えるものです。そして研究チームは、以下のように試験前の睡眠状況の異なる4つのグループを作りました。
- A:単語学習 → 3時間睡眠 → 試験
- B:単語学習 → 3時間起きたまま → 試験
- C:3時間睡眠 → 単語学習 → 3時間睡眠 → 試験
- D:3時間睡眠 → 単語学習 → 3時間起きたまま → 試験
(※睡眠の最初の3時間は深い睡眠、その後、浅い睡眠になります。つまり、グループAは学習の後に深い睡眠を、グループCは学習の後に浅い睡眠をとったことになります。)
そして、単語学習時と試験時の成績の向上率を比較したところ、各グループで以下のような差が生まれました。
試験前に深い睡眠をとったグループAの成績の向上率がダントツに高い結果になりました。
グループAの成績平均は17.6語→23.3語と、ほぼ満点になるほどの向上率(32.4%)です。一方、グループBは17.7語→20.6語と、スタート地点の成績は同じにも関わらず向上率(16.5%)は半分でした。
まさに学習内容(宣言的記憶)の定着が睡眠(特に深い睡眠)により促される、ということが分かりますね。
1-2. 睡眠で運動記憶が定着されることを示したハーバード大学の研究データ
運動技能の定着を睡眠が促すという説については、ハーバード大学の研究データが有名です。
系列タッピング試験というものでテストされました。系列タッピングとは、利き手ではないほうの指に番号を振り(人差し指に1、中指に2、薬指に3、小指に4)、ディスプレイに「2-4-1-3-1」のように5つの数字が出たら、対応する指でキーを叩いて入力する、という試験で、30秒間にどれだけ入力できるかを測定します。
2つのグループが作られ、睡眠がテストにどのような違いをもたらすか測定されました。
- A: 練習 → テスト1 → 睡眠 → テスト2
- B: 練習 → 睡眠 → テスト1 → テスト2
ご覧の通り、睡眠後だとスコアが20%前後向上しています。
睡眠なしでは2~4%しかスコアが向上しないことを考えると、かなり定着を促していることが分かりますよね。
なお、この論文内で、運動能力の定着にはいわゆる浅い睡眠(ノンレム睡眠第2段階)が大事だと指摘されています。
1-3. 学校の始業を遅らせたら生徒の学力向上
ちなみにアメリカでは、中学校や高校の始業時間が早すぎるため、必要十分眠れていない子供が多くいるとされ、それを是正するために学校の始業を遅らせることを目的とした団体「スタート・スクール・レイター」があるほどです。
なお、その団体によりますと、
- 学校が始業時間開始を遅らせると、その地域は、遅刻、授業中のいねむり、自動車事故発生率の低下、さらに出席率、卒業率、および統一試験スコアの改善がありました。
- ノースカロライナ州ウェイク郡で、中学校の始業開始時間を30分以上遅らせる、もしくは、午前8時以降に変更したことで、数学と読解のテストスコアが増加しました。特に、障害のある生徒が最も恩恵を受けました。
- ブルッキングス研究所が発行したレポートでは、中学校と高校の開始時間が遅くすることで、テストスコアが大幅に増加しました。障害のある生徒の場合、約2倍のメリットがありました。
などなど、学校の始業時間を遅らせて子供の睡眠時間を伸ばすことで、学業成績以外にも多くのメリットがあると報告しています。
ちなみに、補足しておくと、アメリカの通学はスクールバスが多いです。学校から遠かったり、親が学校まで送れない家庭の子供は、みんなで乗り合いのスクールバスになります。みんなの自宅まで迎えに行くため時間がかかり、通学に1時間以上かかることはザラなのです。となると、学校が7時半に始まるとなると、6時頃には起きなければなりません。夜22時に眠っても8時間睡眠しか取れず、子供の理想とされる9時間睡眠を達成するのはかなり困難となります。
こういった背景があることを知ると、スタート・スクール・レイターのような運動についても理解しやすいですよね。
1-4. 睡眠不足で記憶が悪くなるのは脳にゴミが溜まるから
なお、睡眠により記憶が定着するメカニズムについてはわかっていないものの、睡眠不足になると記憶力が悪くなることについては分かってきている部分があります。
それが何かと言うと、睡眠不足で脳にゴミが溜まってしまうことです。
マウスを使った実験では、眠りを断つことにより、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβというタンパク質が、記憶をつかさどる海馬という部分に蓄積することも報告されている。(引用:『睡眠の科学』 櫻井 武 著)
どういうことかと言いますと、人が眠っている間(ノンレム睡眠中)に、脳から老廃物が流されているんですね。これはグリンパティックシステムと呼ばれていて、脳細胞への栄養補給と、老廃物の排出がされていると報告されています。
それが睡眠不足により出来なくなることで、そういったゴミが脳の記憶をつかさどるエリアである海馬に溜まっていってしまい、記憶力が悪くなると考えられるのです。
1-5. ストレスで眠れなくなるのは忘れるため(?)
ところで、イヤな出来事があったとき眠れなくなりますよね。
それは睡眠不足で記憶が悪くなることをうまく利用した体の働きだという説があります。つまり、イヤな記憶を忘れるために眠れなくなっているのでは、ということです。
これは2010年に国立精神・神経医療研究センターの栗山博士の報告です。その実験は以下のようにして行われました。
- 昼間に仮想的に交通事故体験をしてもらう
- その晩、眠るグループと徹夜グループに分ける
- 後日、事故時の記憶をテストする
その結果、事故時の記憶については両グループとも同じくらいだったものの、恐怖感や血流上昇などの身体的ストレス反応は、徹夜グループのほうが低かったとのことです。
つまり、ストレスで眠れなくなるのは脳への定着を抑えることも寄与していると考えられるのです。
最後に
記憶力を保つために睡眠が大事だということをご理解いただけていれば幸いです。
きちんと適切な時間眠るよう心がけましょう。適切な睡眠時間で眠れているか判断したい方は、下記のページをご参照ください。
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