——睡眠の質を高めれば睡眠時間は短くても十分!
近年、このような「短時間睡眠法」が喧伝されていますが、その背後に孕んでいるリスクについて語られることはほとんどありませんでした。睡眠専門医までが短時間睡眠を推奨しているなんてちょっと考えものです。短時間睡眠はあなたの肉体的そして知的パフォーマンスを下げる可能性があるかもしれないのです。
ということで本日は「短時間睡眠が体と脳に起こしうる弊害」についてご紹介します。「短時間睡眠に挑戦してみようかな」と関心があるのならまずは本文を読んでからご一考してください。
※こちらのページ『睡眠不足の悲惨すぎる症状一覧と、改善のための方法』で睡眠不足による心身へのデメリットの総まとめをしました。「睡眠時間が短いとどうなるんだろう」と気になっている方は、あわせてご参考にしてください。 |
Contents
1. 一般的に喧伝されている短時間睡眠の内容とは
そもそも短時間睡眠とはどのようなものか、最初に認識を共有しましょう。そうすることで短時間睡眠の弊害についてより理解しやすくなります(理論についてすでに知っている方は2章までジャンプしてください)。
短時間睡眠とはひとことで言うと、睡眠の前半(特に最初の3時間)に現れる深い睡眠(1~4までのステージがあるノンレム睡眠の3~4ステージに当たる徐波睡眠)をとことん深めることで睡眠の質を高め、短い時間でも十分休息が取れるようになるというものです。
もちろん、実際に睡眠前半のノンレム睡眠(徐波睡眠)は脳を休めるための睡眠なので重要なのは間違いありません。さらには、ノンレム睡眠中に成長ホルモンが活発に出るので、ここの眠りを深めるための方法を実践するのは大歓迎です。
深いノンレム睡眠中は、身体の中でも重要な変化が起こる。主に子供の成長や身体の修復に関係する成長ホルモンは、深いノンレム睡眠で熟睡している時に最も活発に作られる。
(引用:『睡眠のはなし』 内山 真 著)
しかしだからといって、睡眠時間を短くしてしまっていいとは限りません。
睡眠後半に多く出現するレム睡眠も大切な眠りだからです。もし睡眠時間が4.5時間になってしまうとレム睡眠の大半が取れないことになってしまいますし、6時間睡眠だとしても半分強しか取れなくなると考えられるからです。
2. 短時間睡眠(レム睡眠の減少)が起こしうる弊害
それでは次に、短時間睡眠だとレム睡眠が減少してしまうことに焦点を当てて、どのような弊害が起こりうるのかご説明していきます。
2−1. 体の疲れが取れない、パフォーマンスが低下する
レム睡眠時に人の運動器(筋肉、関節、神経など)は休まります。
生物にとってレム睡眠の意義とは、主に骨格筋の緊張を積極的に抑制することで身体を非動化させ、外部の昼夜リズムに合わせて骨格筋など運動器を休めることにあると考えられる。
(引用:『睡眠のはなし』 内山 真 著)
突然ですが、早朝、どなたか他人を起こそうとした経験はないでしょうか?
起こそうとしても全然反応がなく、手足を引っ張ってもだらーんと軟体動物のようになっていて、大声で呼んでも全然目覚めない。「もうすぐ朝なのにこいつ深く寝すぎだろ…」と思ってしまいますよね。このようなとき、体が弛緩して休んでいるのです。さらに、体中の筋肉が緩まっているばかりか、耳の中の音をキャッチする鼓膜さえも緩んでいるから声が届かないのです。レム睡眠のとき体は深く休息しているのです。
このような体を休める睡眠が半分になることを考えると体の疲れ取れなかったり、パフォーマンスが落ちる恐れがあることは考えやすいですよね。
スタンフォード大学の実験に、バスケットボール部の大学生11人にいつも通りの生活(睡眠時間6~9時間)を2~4週間続けてもらった後、毎晩少なくとも10時間眠るようにする生活を5~7週間続けてもらい、睡眠時間を伸ばすことでどのような効果があるか調べたものがあります。その結果、彼らのパフォーマンスが飛躍的に高まったと報告されました。
- スプリント走(約86m)のタイムが、16.2秒(±0.61秒)から15.5秒(±0.54秒)と9.6%の向上。
- フリースロー(10本中)の成功率が、7.9本((±0.99本)から8.8本(±0.97本)と9%の向上。
- スリーポイントシュート(15本中)の成功率が、10.2本(±2.14本)から11.6本(±1.50本)と9.3%の向上。
- 練習時の自己評価(10点中)が6.9点から8.8点へと向上。
- 試合時の自己評価(10点中)が7.8点から8.8点へと向上。
- その他、気力が向上、疲れが低下、緊張が低下など、精神バランスも向上。
睡眠時間が7時間(第四周期以降)を超えると、ほとんどが浅いノンレム睡眠かレム睡眠になります。つまり、伸びた睡眠時間のほとんどが浅いノンレム睡眠とレム睡眠と考えられます。
この眠りが増えたことで運動パフォーマンスが高まったことを考えると、やはりレム睡眠は体を休めるための働きがあるのだと合点がいきます。その反対に、短時間睡眠によりレム睡眠が削られると体の疲れが取れずパフォーマンスが下がることも想像に難くはありません。
2−2. 大脳が活性化されず創造性・感情的記憶力が鈍くなる
「ノンレム睡眠は脳の眠り」「レム睡眠は体の眠り」と言われることがありますが、この言い回しはかなり簡略化されたものです(ここまで読まれた方もこのように誤解をしているかもしれません)。
正しくは、ノンレム睡眠もレム睡眠もどちらも脳のための睡眠です。ノンレム睡眠は大脳を休め、レム睡眠は大脳を活性化させるのです。
大脳があるところまで成熟した段階では,ノンレム睡眠は大脳を鎮静化する眠り,レム睡眠は大脳を活性化する眠りとなる.したがって,大脳の温度・血流量・ブドウ糖代謝・ニューロン活動・意識水準のいずれもノンレム睡眠時に下降しレム睡眠時に上昇する.
(引用:『ヒトや動物はなぜ眠るのか』 井上昌次郎著)
大脳といえば知覚、思考、記憶、運動など高等動物に特徴的な機能の中枢です。その大脳をしっかり休めるだけでなく、その後にきちんと活性化までさせる。ここまで一続きなのです。ここまで一連の働きがあってこそ、脳がよりよく活動することができるのです。
レム睡眠が現れるまで眠ると脳の創造性にどのような効果があるかカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが調べた実験があります。被験者は「sixteen」「heart」「tooth」のような一見無関係な単語を見せられ、その全てに共通する4つ目の単語をひねり出せるかテストされました。
この種の問題では、被験者が九十分の昼寝をしたあとでは非常に答えを思いつきやすくなり、こうした優位性は昼寝中にレム睡眠が含まれていた場合にのみ現れた。
(引用:『眠っているとき、脳では凄いことが起きている』 ペネロペ・ルイス著)
レム睡眠を取ったグループの正答率は40%上がったものの、ノンレム睡眠のみのグループと睡眠を取らずに休憩をしていたグループの正答率に向上は見られなかったようです。このような結果から、レム睡眠は関連性の薄い情報をまとめて創造的に解決する能力を高めるのではと結論付けられています。
またこれとは反対に、レム睡眠を奪うとどうなるかのかという恐ろしい実験もあります。
実験はまず、被験者の睡眠ポリグラフを記録して睡眠状態を観察します。そして、被験者がレム睡眠に入ったら、すぐに起こし、被験者の眠りをノンレム睡眠だけにするのです。これを何度も繰り返していくと、被験者のイライラが募り、物覚えが悪くなり、不快感が強まったと報告されています。
(引用:「睡眠と脳の科学」 古賀吉彦 著)
これはやや極端な実験ですが、レム睡眠は軽んじてはいけないとお分りいただけるかと思います。
ノンレム睡眠とレム睡眠はセットのようなものです。バランスよく両輪がきちんとまわることで体と脳(ひいては精神)の健康が維持できるのです。
最後に
繰り返しになりますが短時間睡眠は肉体的そして知的パフォーマンスを下げるのでおすすめできません。
とはいえ、短時間睡眠法は睡眠時間を削る点以外はまともな内容だったりします。例えば、午前中に光を浴びる、ベッドは睡眠とsex以外の活動をしない、夜食・寝酒はダメなどについては睡眠の質を高めるために大切なので実践することをおすすめします。
このような内容については下記のページでまとめています。睡眠の質をあげたいのなら知識として網羅的に頭に入れておきましょう。
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