睡眠負債がたまってると言われると、完済したくなりますよね。
しかし、実のところ、質の高い睡眠をとるためには、適度な睡眠負債が必要なのです。
睡眠負債は、借金と同じように理解されてしまい、ゼロであるべきと誤解されています。
そこで本日は、睡眠負債という言葉が初めて使われたスタンフォード大学の論文を紹介しながら、あなたの睡眠負債の測定方法と、適度な睡眠負債の量を知るための方法についてご紹介します。
※こちらのページ『睡眠不足の悲惨すぎる症状一覧と、改善のための方法』で睡眠不足による心身へのデメリットの総まとめをしました。睡眠不足が気になる方はあわせてご参考にしてください。 |
Contents
1. 睡眠負債とは
睡眠負債とはかんたんに言うと、溜まってしまった睡眠不足のことです。
適切な睡眠時間が8時間なのに、毎日7時間しか眠っていなかったら、睡眠負債が1時間ずつ溜まっていっていると言えます。睡眠不足により生じる脳のパフォーマンスの低下は、さながら利子のようなものです。
1-1. 睡眠負債が測定されたスタンフォード大学の論文内の実験
この言葉が最初に使われたのは、スタンフォード大学により公開された論文です。
そこで取り上げられている実験について説明しながら、睡眠負債について深掘りしていきましょう。下記が実験の内容です。
- 被験者は8名
- 平均睡眠時間は7時間36分
- 好きなだけ眠ってよしとベッドに1日14時間いるよう指示
- そのまま28日間過ごしてもらい様子を見る
その結果、最初の数日は睡眠時間が12時間を上回るほどになりました。
その後、睡眠時間は徐々に減り続けるものの、2週間経っても9時間以上眠り、最終的に、3週間目以降になってようやく落ち着きました。
この睡眠時間が落ち着いたとき(平均8時間15分)が睡眠負債ゼロの状態で、それから今までの睡眠時間(7時間36分)を引いた時間が睡眠負債(約40分)だとされています。
1-2. 睡眠負債は完済NG|適度な睡眠負債は、良質な睡眠に必要
では、彼らにとって最適な睡眠時間が8時間15分かというと、そうではなかったのです。
この実験は、3週間目に睡眠時間が落ちついたあとも続けられました。毎日、たっぷり眠れてさぞかし睡眠の質が上がるに違いないと思ったら、逆だったのです。
- 寝つきが悪くなった
- 夜間に目覚めるようになった
などなど、眠りすぎたせいで睡眠の質が悪くなったのです。それまでは10時間近く眠っても夜間にぐっすり眠れていたのに、です。
この実験からは、もうひとつ重要な原則が明らかになった。それは、眠りを効率的に得るために、多少の睡眠負債は必要だということだ。睡眠負債が少なくなるにつれて被験者が寝つくまでの時間は長くなった。
(引用:『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』 ウィリアム・C・デメント 著)
つまり、睡眠負債がゼロの状態になると、睡眠の質が下がってしまうのです。
よく睡眠負債を完済しましょうとか、睡眠負債を無くしましょうと言われますが、それはダメなのです。睡眠負債は必要悪。多少はないといけないのです(調整方法は2章で)。
1ー3. 睡眠負債を返済しても体へのダメージは残る
しかし、絶対に覚えてもらいたいのが、睡眠負債を返したとしても、それまでに体に蓄積したダメージは残るということです。
参考となるデータに、ウォルター・リード陸軍研究所で行われた実験があります。睡眠状態別に、視覚的刺激にどれくらい早く反応できるか調べられました(Psychomotor vigilance task: PVT法)。
- 被験者は男女66名
- 平均43歳
- 4つの睡眠グループ(3時間、5時間、7時間、9時間)を作る
- 7日間、その睡眠時間で過ごしてもらう
- その後3日間、8時間睡眠で過ごしてもらう
その結果、睡眠時間が短いほど反応スピードが遅くなっているのは当然として、8時間睡眠をとった回復日でもスコアが悪いままになっています。
同じテストの、そもそも反応できなかった回数でも同様の結果となっています。
つまり、平日短時間睡眠で、休日寝溜め(返済)という方法では、脳の回復が追いつかずどんどんパフォーマンスが悪くなっていくのです。
他にも例えば、睡眠が足りないと免疫力が弱まり、ワクチンの効果も減ってしまうと報告されていますが、これも同じように数日眠っただけでは取り返しがつかないことが実験からわかります(詳細は下記ページを)。
関連記事2. 【実践編】あなたの睡眠負債を適度にするための方法
ではどうすればいいのかと言うと、それはもう眠るしかありません。
睡眠負債を返すには眠るしかないのです。すでに体に溜まってしまったダメージについては取り返しがつかないとしても、これ以上体を傷つけないよう、眠るしかありません。
「2週間も10時間くらい眠り続けるなんて…」と思われるかもしれません。しかし、残念ながらそうするしかないのです。とはいえ、そんなにたくさん眠るのは現実的でないと思います。そこで、
- 睡眠時間をできるだけ長くしてみる
- 連休をつかって大量に眠ってみる
- 昼寝の習慣を取り入れる
などのように、まずは睡眠時間を可能な限りたくさん確保するようにしましょう。
2-1. あなたの睡眠負債が適度であるか測定する2つの方法
たくさん眠ることを実践していただけるなら、次はゴール設定です。
「昼間の眠気」と「入眠潜時(寝つきにかかる時間)」を指標に、あなたの睡眠負債が適度になったか測定しましょう。
■エスワープ眠気尺度
- 座っていて本を読んでいるとき
- テレビを見ているとき
- 劇場や会議の席など、ほかの人もいる場所で何もしないでじっと座っているとき
- 一時間続けて車に乗っているとき(運転はしない)
- 午後ずっと横になっていてもいいとき
- 座って誰かと話しているとき
- 昼食(アルコールなし)の後、じっと座っているとき
- 車に乗っていて渋滞に巻き込まれ、数分停止しているとき
0点=眠くならない。 1点=たまに眠ってしまう。 2点=わりと眠ってしまう。 3点=ほぼ確実に眠ってしまう。
合計点数が0~5点だと睡眠負債がゼロかあってもごく僅かだとされています(午後ずっと横になっていいときに眠気がまったく生じないのは眠りすぎの可能性がありますが)。
■入眠潜時
- 5分未満
- 5~10分
- 10~15分
- 15~20分
- 20分以上
寝つきにかかる時間は10~15分前後だと睡眠負債が適度になっているはずです。
もし、睡眠尺度の点数が0点で、その上、寝つきに20分以上かかるようになってしまったら、眠りすぎの可能性が大きいです。睡眠時間を15分ずつ減らして調整してみてください。
2-2. 睡眠負債を返すときの注意点
「睡眠負債を返すなら何かグッズとかも活用したほうがいいかな?」と、気合いを入れたくなる気持ちはわかります。
しかし、まずは、増やすのは睡眠時間だけにしておきましょう。あれやこれも、、といろいろやるよりも一点集中、たくさん眠ることに力を入れましょう。
それでももし、「何かやりたい…」とお考えなら、睡眠を妨害するようなものを減らすことから始めましょう。一例をあげると、
- アルコールを控える
- カフェインを控える
- 脂質の多い食事を控える
- 夜間は明るい環境を避ける
- 寝る直前は仕事をしない
- 寝る前はスマホ使用を控える
- 就寝前はゲームを控える
- 入浴、運動は就寝2時間前には終える
などです。
あなたがやってしまっていることがあれば、止めるだけなので取り組みやすいと思います。
※睡眠障害などで睡眠負債が溜まっている場合は病院へ
例えば、あなたがひどいいびきをかいているのなら話は別です。
睡眠障害により睡眠がままならなくなっているとしたら、いくらあなたが睡眠時間を伸ばしたところで改善は期待できません。心当たりがあるのなら、いますぐお近くの睡眠外来を受診することをおすすめします。
最後に
睡眠負債とは何なのか、ご理解いただく一助になっていれば幸いです。
優先順位は、まずは睡眠時間を増やすこと、そして、睡眠に悪いことを減らすことです。そして、それができたら睡眠の質を高めることを考えていただければと思います。
以下のページでこれまで紹介してきた、数々の研究で実証された良質な睡眠のために「するべきこと」と「してはいけないこと」を網羅的にまとめています。美味しいところ(結論)だけをつまみ食いできる構成になっています。是非ご一読ください。
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