睡眠

【論文データで解説】睡眠で運動能力が高まる理由

朝早く起きて練習するよりも、睡眠時間を伸ばしたほうが運動能力が上がる。

昭和のスポコン世代の人には信じられないような話かもしれませんが、ここ数年の新しい研究でこのような説が有力なってきています。

ということで本日は、

  • 睡眠で運動能力が上がる3つの理由
  • 睡眠時間を伸ばして運動能力が向上したデータ

についてご紹介します。

※睡眠の質を上げるための方法をこちらのページ「睡眠の質を高めるための方法(総まとめ編)」でまとめています。ぜひあわせて参考にしてください。
著者情報
加賀 照虎

加賀照虎(上級睡眠健康指導士)

上級睡眠健康指導士(第235号)。2,000万PV超の「快眠タイムズ」にて睡眠学に基づいた快眠・寝具情報を発信中。NHK「あさイチ」にてストレートネックを治す方法を紹介。
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1. 睡眠で運動能力が上がる3つの理由

3つあるので、1つずつ分かりやすく解説していきます。

①運動技能の定着が睡眠中に行われるから

睡眠で記憶が定着するってよく言われますよね。

これは運動についても当てはまりまして、運動を通して体で覚えたことも、睡眠によって定着するんですね。これは手続き記憶と呼ばれるものです。

types-of-long-term-memory
長期記憶の種類

素早く移動するための重心のズラし方とか、言葉にできないものの体感的に覚えることってスポーツの世界には多いですよね。そういった記憶の定着が睡眠中に行われるのです。

これについては、ハーバード大学医学部の研究が参考になります。

系列タッピング試験というものでテストされました。系列タッピングとは、利き手ではないほうの指に番号を振り(人差し指に1、中指に2、薬指に3、小指に4)、ディスプレイに「2-4-1-3-1」のように5つの数字が出たら、対応する指でキーを叩いて入力する、という試験で、30秒間にどれだけ入力できるかを測定します。

2つのグループが作られ、睡眠がテストにどのような違いをもたらすか測定されました。

  • A: 練習 → テスト1 → 睡眠 → テスト2
  • B: 練習 → 睡眠 → テスト1 → テスト2
Practice-with-sleep-makes-perfect3
運動技能が睡眠により定着する

ご覧の通り、睡眠後だとスコアが20%前後向上しています。

これはつまり、睡眠により技能が定着したということを意味します。とはいえ、このような事実はすでにご存知かもしれません。

ただ今回、ぜひ頭に叩き込んでいただきたいのが、この論文内に書かれていた次の言葉です(私は最初衝撃を受けました)。

睡眠と運動能力改善の大きな相関性が見られたのは、眠りの最後に現れるノンレム睡眠第2段階でのみでした。4周期あったノンレム睡眠第2段階の最初の3周期には、この相関性は見られませんでした。

(引用:”Practice with Sleep Makes Perfect” Walker MP et al.)

分かりやすく言うと、睡眠の終わりのほうの浅い睡眠のときに、技能の定着が促されていたということです。

下のイラストの赤い丸のところです。

Practice-with-sleep-makes-perfect1
4周期目のノンレム睡眠第2段階で運動技能が定着した

左から睡眠が始まって、深くなったり浅くなったりして、眠りのほぼ最後に現れるというのが目で見てわかるかと思います。

つまり、運動技能の定着のために睡眠は大事ですし、睡眠の長さも大事だということなんですね。

②脳機能(認知技能・反射神経)が睡眠により向上するから

スポーツで成果を出すには、脳機能のパフォーマンスの高さも大切ですよね。

例えば、相手がいるスポーツだと、目で捉えた相手の動きから状況を判断する認知能力・反射神経はかなりパフォーマンスを左右するポイントになります。

そしてなんと、このような脳機能も睡眠により向上するのです。

これについてもまたもや、ハーバード大学医学部が行った実験が参考になります。

下のような画像を1.7秒だけ見せられ、真ん中のローマ字が「T」か「L」を覚えつつ、画面のどこかに現れる斜線「///」が縦ならびか横ならびかを判断するという認知力を測定する試験が行われました。

Pattern-discrimination-test
パターン識別の認知能力テスト

この実験でも同じように、練習後に睡眠を挟むグループと挟まないグループで比較が行われました。

もちろん、言うまでもないかもしれませんが、睡眠をとったグループのほうが良いスコアでした。つまり、睡眠が認知能力を向上させるのです。

ただ、この実験で驚きなのが、睡眠時間が長ければ長いほどスコアの向上量(識別から反応までの時間の短縮)が大きかったということです。

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睡眠で認知能力が向上する

で、さらに驚きなのが、どの睡眠がスコアをこんなにも向上させたのか調べられたのですが、それが第1周期の徐波睡眠(いわゆる深い眠り)と第4周期のレム睡眠(眠りの一番最後に現れる)だったんですね。

Practice-with-sleep-makes-perfect2
第1周期の徐波睡眠と第4周期のレム睡眠がスコアを向上させた

つまり、睡眠により脳機能(認知能力・反射神経)を向上させられる。

それは確かにそうなのですが、さらに厳密にいうと、きちんと適切な睡眠時間をとることで認知能力を向上させられる、ということなのです。

③睡眠により筋肉が休められるから

3つ目の理由は仮説にはなりますが、シンプルに睡眠(レム睡眠)の間に筋肉が休められるからです。

レム睡眠のとき、脳から体を麻痺させる指令が出るんですね。それにより体中のほとんどの筋肉が弛緩した脱力状態になります。

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レム睡眠のときは筋肉がだらんと弛緩する

これにより筋肉が回復しているのではと考えられています。

生物にとってレム睡眠の意義とは、主に骨格筋の緊張を積極的に抑制することで身体を非動化させ、外部の昼夜リズムに合わせて骨格筋など運動器を休めることにあると考えられる。(引用:『睡眠のはなし』 内山 真 著)

またこのとき、血管が拡張することで血液が広く行き渡ることも何か関係があるかもしれないとも考えられています。

ちなみに、睡眠不足だと筋肉が回復しないからかなのかは不明ですが、睡眠時間が短いと運動中に怪我をしやすくなるとの共同研究があります。

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睡眠時間が短いと運動中の怪我リスクが高まる

平均15.2歳の中高生を対象とした睡眠時間と怪我率の関係が調べられたこの実験では、睡眠時間が短いと怪我をしやすくなると報告されています。

睡眠時間が8時間未満の人は、睡眠時間が8時間以上のものと比べて1.7倍も怪我をしやすくなるとのことです。

15歳くらいの子供の睡眠時間は9時間前後が理想とされていますが、このデータ内で9時間睡眠の子供の怪我率が圧倒的に低いことからも納得がいきますね。


2. 運動能力を上げたいならまずは質より時間を優先すべき

ここまでお読みになられて、睡眠の大切さはご理解いただけたかと思います。

ただ、ここで注意いただきたいのが「よし!睡眠の質を上げるぞ!」と、質のほうに走らないことです。それよりも、まずは睡眠時間について見直してみることをおすすめします。

というのも、そちらのほうが簡単で、良い結果が出やすいと考えられるからです。

これについては、スタンフォード大学の実験が参考になります。

平均年齢19.4歳の被験者11人に、いつも通りの生活を2~4週間続けてもらった後に、毎晩少なくとも10時間眠るようにする生活を5~7週間続けてもらいました。その結果、睡眠時間を伸ばしたらパフォーマンスに大きな改善が見られたのです。

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スポーツをやっていない方でも、一目でわかるほどパフォーマンスが向上しています。

ここまでの変化がただ1ヶ月半、睡眠時間を伸ばしただけで得られるなんて驚愕ですよね。これが睡眠の質にこだわるよりも、時間を伸ばすべき理由なのです。ちなみに、この研究グループによると、

  • そもそも選手は慢性的に睡眠不足で全力を発揮できていなかった
  • 睡眠を長くすることで本来の能力を発揮できるようになった

という背景から、この結果に至ったのではと考えられています。

こういった新しい知見から見直され始めているのが、朝練です。

ただでさえ若くて長い睡眠時間が必要とされる学生。中学生や高校生の部活動となると、通学時間に数十分はかかるのに朝早くから朝練を始めますよね。睡眠時間を削って早起きしている学生は少なからずいるはずですし、そんな生活では睡眠時間を伸ばすことなんて到底叶わないですよね。

秋田県の角館高校の野球部は朝練を廃止してから、スイングや投球のパフォーマンスがアップしたり、甲子園に初出場するようになったとのこと。もちろん、睡眠時間を増やす以外にも、練習内容の改善などがあったのだろうと思いますが、練習時間を減らしながらも結果をだすのはお見事です。


3. 運動能力を上げたいなら体内時計に合わせること(追記)

なお、最高の運動パフォーマンスを叩き出すには、あなたの体内時計のタイプ(クロノタイプ)に合ったタイミングに行うことも大切です。

朝型、夜型などのように、人によりクロノタイプは異なります。

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クロノタイプの分布

夜型の人はエンジンが稼働するのが遅めです。

体温の動きを見ると明らかです。

Changes-of-temperature
朝型・夜型の体温変化の違い

そのため、夜型人間と朝型人間が午前中に試合をしたら、夜型の人は圧倒的に不利なのです。

なお、最高のパフォーマンスを出せる時間帯は、クロノタイプごとに下記のようになると言われています。

アスリートのクロノタイプと運動パフォーマンスを調べた2015年のイギリスの研究では、朝型は午後1時~4時、中間型は午後4時~7時、夜型は午後7時~10時にパフォーマンスのピークを迎えることがわかりました。さらに、個人のパフォーマンスは1日の中で最大26.2%も変わるというではありませんか。

(引用:『睡眠レッスン』 穂積 桜 著)

ちなみに、このイギリス(バーミンガム大学)の研究というのは、朝型と夜型の人たちに8時、14時、20時にそれぞれ認知テストや運動テストを行ってもらったところ、やはりクロノタイプ別にパフォーマンスが全然変わっていたというものです。

こちらが認知テスト(Executive functionタスク)の結果。

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時刻によりパフォーマンスが変わる

こちらも認知テスト(Psychomotor vigilanceタスク)の結果。

performance-changes-based-on-the-time2
時刻によりパフォーマンスが変わる

こちらは身体機能テスト(最大随意筋力:maximum voluntary contraction)の結果。

performance-changes-based-on-the-time3
時刻によりパフォーマンスが変わる

運動をする時間帯でかなりの差が出ていますよね。

このチャートを見ると、クロノタイプに合った時間帯に運動できるかどうかがすごく重要だということをご理解いただけるかと思います。


最後に

睡眠はなにも運動面だけでなく、感情面や、健康面、学習面などを回復させるための大事な休息です。

ご紹介の内容で睡眠の重要性についてご理解いただく一助になっていれば幸いです。

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コメントはこちらからどうぞ

  1. 非常にわかりやすかったです。論文のデータを用いてくださるのは大変ありがたいです。

    1. 岡田様
      コメントありがとうございます。
      内容にご満足いただけて嬉しく存じます!
      加賀照虎

加賀 照虎 (上級睡眠健康指導士) へ返信する コメントをキャンセル

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