寝る暇があったら仕事!勉強!練習!!
そんな精神論者を今回は、ぶった斬ります。
睡眠の役割は「脳の休息・回復」です。さらに、良質な睡眠をとることにより脳力・身体能力のパフォーマンスが劇的に向上する、と世界中の多くの実験により証明されています。
そこで今回は、「睡眠の絶大な効果を証明した実験」と「あなたがその効果を効率的に応用する方法」をご紹介します。
※睡眠の質を上げるための方法をこちらのページ「睡眠の質を高めるための方法(総まとめ編)」でまとめています。ぜひあわせて参考にしてください。 |
Contents
0. 睡眠の役割・効果
睡眠の役割を教科書的に言うと、「脳の休息と回復」です。日中、脳は活発に働き続けるので、睡眠時に回復する必要があります。身体の全てを、脳が管理していると言っても過言ではありません。そのため、「脳の休息と回復」には以下のような効果があります。
- 学習内容の整理、定着。
日中に見聞きしたこと、体験したこと、学んだことなどの情報の取捨選択がされます。 - 身体組織の修復、再生、成長。
古くなったり、損傷を受けた身体細胞を脳が分泌する成長ホルモンにより修復・再生します。 - 自律神経系、内分泌系、免疫系のバランスを保持。
身体を健康に保つためのシステムの維持管理がされます。
抽象的で分かりづらいですね。
そこで次に、実験により明らかにされた「睡眠の絶大な効果」を数値・グラフと共にご紹介します。
1. 睡眠の身体能力への効果
まずは睡眠により身体的パフォーマンスが著しく向上した例をご紹介します。
1−1. 運動技能の定着
頭で覚えたことを定着させるだけでなく、「体で覚えたことを定着させる効果も睡眠にはある」ハーバード大学医学部の研究チームにより、2002年に報告されました。
系列タッピングという試験を用いて、研究が行われました。系列タッピングとは、非利き手の指に番号を振り(人差し指に1、中指に2、薬指に3、小指に4)、ディスプレイに「2-4-1-3-1」のように5つの数字が出たら、対応する指で素早くキーを叩いて入力する、という試験で、30秒間にどれだけ入力できるかを測定します。
研究チームは被験者を2つのグループに分けて、練習と2回のテストの間の睡眠の挟み方を以下のように変えました。
グループA:10:00amに練習し、10:00pmに1度目の試験。そして睡眠を挟み、10:00amに2度目の試験。 グループB:10:00pmに練習し、睡眠を挟み、10:00amに1度目の試験。そして10:00pmに2度目の試験。 |
その測定結果が、以下のグラフに表されています。
なんと、どちらのチームも睡眠をとった後のスコアが劇的に向上(約20%)しています。つまり、睡眠をとることで体で覚えた内容の定着率が格段に向上することが分かりました。
※なお、この実験の続きでは、成績向上は睡眠の後半に現れる浅い睡眠と強い相関性があると、報告しています。
1−2. 運動技能の向上
また、スタンフォード大学の研究チームがバスケットボール部の学生を対象に行った実験では、睡眠時間をいつもより伸ばすことで運動技能が飛躍的に向上したと報告しています。
実験は以下のように行われました。
平均年齢19.4歳(±1.4歳)の被験者に11人に、いつも通りの生活は2〜4週間続けてもらった後に、毎晩少なくとも10時間眠るようにする生活を5〜7週間続けてもらいました。
その結果、学生のパフォーマンスに劇的な改善が見られました。
・スプリント走(約86m)のタイムが、16.2秒(± 0.61秒)から15.5秒(± 0.54秒)と9.6%の向上。 ・フリースロー(10本中)の成功率が、 7.9本( ± 0.99本)から8.8本(± 0.97本)と9%の向上。 ・スリーポイントシュート (15本中)の成功率が、10.2本(± 2.14本)から11.6本(± 1.50本)と9.3%の向上。 ・練習時の自己評価(10点中)が6.9点から8.8点へと向上。 ・試合時の自己評価(10点中)が7.8点から8.8点へと向上。 ・その他、気力が向上、疲れが低下、緊張が低下など、精神バランスも向上。 |
圧倒的にパフォーマンスが向上しています。睡眠時間をいつもより長くするだけで、技能レベルに大きな向上をもたらす効果が出たと言えます。
一方、選手本人も厳しいトレーニングの中、知らぬ間に睡眠が不足しており、そもそも実力通りのパフォーマンスが発揮できていなかった、という仮説もあるため、さらなる研究が期待されています。
2. 睡眠の脳力への効果
それでは次に、睡眠が脳のパフォーマンスに与える効果をご紹介します。
2−1. 学習内容の定着を促す
睡眠により学習内容の定着が促進されることがバンベルグ大学の実験により証明されています。
試験内容は、「鳥 – 鷲」のように対になった単語リスト(計24対)を記憶し、「鳥」と問われたら「鷲」と答えるもの。研究チームは、以下のように試験前の睡眠状況の異なる4つのグループを作りました。
A:「単語の学習」→「3時間睡眠」→「試験」 B:「単語の学習」→「3時間起きたまま」→「試験」 C:「3時間睡眠」→「単語の学習」→「3時間睡眠」→「試験」 D:「3時間睡眠」→「単語の学習」→「3時間起きたまま」→「試験」 |
※注意:睡眠の最初の3時間は深い睡眠、その後、浅い睡眠になります。つまり、グループAは学習の後に深い睡眠を、グループCは学習の後に浅い睡眠をとったことになります。
そして、単語学習時と試験時の成績の向上率を比較したところ、各グループで以下のような差が生まれました。
試験前に深い睡眠をとったグループAの成績の向上率がダントツに高い結果になりました。
グループAの成績平均は17.6語→23.3語と、ほぼ満点になるほどの向上率(32.4%)です。一方、グループBは17.7語→20.6語と、スタート地点の成績は同じにも関わらず向上率(16.5%)は半分でした。
このように睡眠(特に深い睡眠)により記憶の定着が促される、ということが明らかにされました。
2−2. 洞察力を鋭くする
さらに、ドイツのリューベック大学神経内分泌学部の研究チームの報告により、睡眠が洞察力を高めることが明らかにされています。
研究チームは、一見難しいが隠れた法則性に気づくと解ける問題を、以下の3つの条件の異なるグループ(1グループ22人)に取り組んでもらいました。
A:「朝に3回、問題の訓練を行う」→「8時間起きたまま」→「夜に問題を解く」 B:「夜に3回、問題の訓練を行う」→「8時間起きたまま」→「翌朝に問題を解く」 C:「夜に3回、問題の訓練を行う」→「8時間眠る」→「翌朝に問題を解く」 |
つまり、グループCだけが問題に取り組む前に睡眠をとっています。その結果が、以下のグラフが示すように、各グループ内の正当者率に大きな違いが現れました。
法則性を見抜き正答する人の割合が、グループCに圧倒的に多く現れました。他のグループに比べて、倍以上の正答率です。
この実験により、しっかりと睡眠をとることで、隠れた法則性を見抜く洞察力が高まる、難問に対してひらめき易くなるということが分かりました。
3. なぜパフォーマンスが上がるのか?
ここから先は少し専門的な話になりますが、なぜ睡眠をとることで運動能力が飛躍的に向上するのか、記憶・学習内容がより定着するのかを、脳のシステム・神経レベルで実証されている実験をご紹介します。
3−1. 睡眠時に脳内で大メンテナンスが行われるため
睡眠が脳力を向上させるメカニズムの全貌は解明されていませんが、仮説はいくつかあります。その1つとして、「睡眠中に脳内が大掃除され整理される」という可能性を示す実験がロチェスター大学医療センターの研究チームにより発表されています。
そもそも脳は、脳脊髄液という液体の中に浮かんでいるのですが、この液体には、脳に栄養を運んだり、脳の老廃物を排出する機能があります。
この研究チームがネズミを使い脳内の老廃物の排出活動を調べたところ、睡眠中の脳内は、脳脊髄液が流れやすい環境になり、起きているときと比べて睡眠中の排出システムの活動量が10倍にもなっていることが判明しました。
つまり、眠っているときは、頭の整理整頓効率が10倍になるのです。このため、睡眠をとることで眠るまえの学習内容をしっかりと定着させつつ、不要な情報などは忘れるようにしているのでは、と考えられます。
※なお、脳から排出される老廃物には、アミロイドβというアルツハイマー病の原因になる物質も含まれています。なので、睡眠は脳の病気予防にもなると言えます。 |
3−2. 学習後の睡眠で神経が発達するため
さらに、「学習後に睡眠をとることで神経が発達するため学習内容を強固にする」ことを示唆する実験がニューヨーク大学医学部の研究チームにより報告されています。
実験対象はマウスで、以下の4つのグループに分けられ、実験が行われました。
グループA:運動学習をさせた後、8時間の睡眠をとらせる。 グループB:運動学習をさせた後、8時間起きたままにさせる。 グループC:運動学習をさせた後、4時間起きたままにさせ,その後また同じ運動をさせ,さらに4時間起きたままにさせる。 グループD:運動学習させず、8時間起きたままにさせる。 |
マウスに学習させた運動とは、マウスを回転する筒に掴まらせ、落ちないように前進させることです。その結果、以下のような違い神経の成長に以下のような違いが生まれました。
グループA:神経の十分な成長が見られた。 グループB:グループAの半分程度の神経の成長具合。 グループC:グループAの2/3程度の神経の成長具合。 グループD:グループAの1/3程度の神経の成長具合。 |
と、運動学習の後に眠っているグループが最も神経が発達したことが分かりました。グループCの学習時間はグループAの2倍もあるにも関わらず、神経の成長具合は2/3程でした。
しかしこの状態では、運動により成長した神経が、「眠れないと衰退する」のか、「眠るとさらに成長する」のか分かりません。そのため、グループAとBを対象に、その後16時間の神経の成長具合を測定しました。
その結果、グループAではその後も神経の成長が続くが、グループBでは成長が多少ある程度だった、ということが判明しました。また、運動学習の1日後と5日後に行ったパフォーマンス測定では、グループAはグループBの約2倍の向上率が1日後にあり、約2.5倍の向上率が5日後にありました。
このことから「学習後に眠ると神経が成長し、学習内容がしっかりと定着する」という可能性が考えられます。
4. あなたが効率的に睡眠の効果を得るコツ
様々な実験で証明される睡眠の絶大な効果を知り、「そんな効果を得たい!」と思わないでしょうか?そこで最後に、あなたが睡眠のこのような効果を得られるコツをご紹介します。
4−1. 良質な睡眠を得る5つの方法
先ずは睡眠の質を高めることに努めましょう。睡眠の質を上げる方法は多くありますが、特に効果のある5つの方法をご紹介します。
- 夜間に運動を取り入れる
夜間に運動をすることで、寝つきを楽にし、熟睡感を高められます。 - 日中に太陽の光を多く浴びる
日中(特に午前)に日光を浴びると、夜間に「メラトニン」という睡眠物質が分泌されます。このメラトニンの働きにより、寝つきを楽にし、睡眠を深められます。 - 眠るときに体温が下がりやすいようにする
眠るときヒトの身体は体温が下がるようにできています。体温が高いままではスムーズに深い眠りに入っていけないので、体温が下がりやすいようにしてきましょう。 - 夜間に明るい光を浴びない
日中の光とは異なり、夜間に明るい光を浴びるとメラトニンの分泌が抑制されるので、夜間はご家庭の照明を弱めに設定しましょう。 - 眠る前の摂取物に気をつける
アルコール・カフェインを眠る前に摂取すると、作用により睡眠の質が大きく低下します。アルコールは眠る3時間前まで、カフェインは夕食以降にとらないようにしましょう。
こちらの記事「今すぐ試せる!睡眠のメカニズムに沿った熟睡する方法15選」で具体的な方法論をご紹介しているので、是非ご一読ください。
4−2. 運動能力編
運動脳力を睡眠で向上させたい。そう思ったのなら上記の方法に加えて、迷わず睡眠時間を伸ばしましょう。
ただ長く眠れば良い訳ではありませんが、あなたが気付いていないだけで、あなたにはもっと長い睡眠が必要かもしれないからです。
ヒトの眠りをグラフで表すと以下のようになります。
明け方にかけてレム睡眠の割合が増えているのが分かると思います。このレム睡眠こそが体を休めるための睡眠と言われています。
※レム睡眠とは: 全睡眠の約20%を占める。身体を休めるための睡眠。レム(REM)とは急速眼球運動(Rapid Eye Movement)から由来し、レム睡眠のときは眼球が動いている。脳波はまどろみ状態の動きと似ているため浅い睡眠と言われる。しかし浅い睡眠を続かせるために、外部の刺激を感じにくくなっているので、必ずしも浅い睡眠とは言えない。脳が起きているため夢を見る。 |
このように、レム睡眠は睡眠の後半に多く現れます。そのため、睡眠時間を長くすることで、全睡眠中のレム睡眠の割合を多くでき、その結果、運動能力の向上につなげられるのでは、と考えられます。
日々、練習に精を出すアスリートの方は、睡眠を軽視せず、まずは1ヶ月でも良いので睡眠時間を伸ばしてみましょう。
4−3. 脳力編
脳力を上げる場合も、睡眠不足にならないようにしっかりと眠ることは大事です。
その上で、睡眠の「最初の3時間」の質にこだわりましょう。なぜならヒトの睡眠の内、眠り始めの3時間に深い睡眠が現れるのですが、この深い睡眠こそが「脳の修復と回復」に重要だからです。
そのため、就寝前のアルコール・カフェインの摂取は絶対に禁物です。深い睡眠を阻害してしまうことにより、「脳の修復と回復」が損なわれてしまいます。
まとめ
睡眠の絶大な効果に驚かれたことと思います。もちろん、あなたもこのような効果を得られます。是非とも、ご紹介の方法に取り組んでください。
なお、以下のページでこれまで紹介してきた、数々の研究で実証された良質な睡眠のために「するべきこと」と「してはいけないこと」を網羅的にまとめています。美味しいところ(結論)だけをつまみ食いできる構成になっています。是非ご一読ください。
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