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睡眠の重要性|人はなぜ眠るのか?睡眠の3つの役割

人はなぜ眠るのか?

まだ私たちはその答えを得ていません。最新の研究をもってしても、睡眠という活動を行なっている理由はまだ解明されていないのです。

とはいえ、睡眠の働きについては数々の実験を通して、ある程度解明されてきました。そのような中で、人が眠る理由の仮説も生まれています。そこで本日は、「人はなぜ眠るのか、睡眠の3つの役割」についてご紹介します。

※睡眠の質を上げるための方法をこちらのページ「睡眠の質を高めるための方法(総まとめ編)」でまとめています。ぜひあわせて参考にしてください。
著者情報
加賀 照虎

加賀照虎(上級睡眠健康指導士)

上級睡眠健康指導士(第235号)。2,000万PV超の「快眠タイムズ」にて睡眠学に基づいた快眠・寝具情報を発信中。NHK「あさイチ」にてストレートネックを治す方法を紹介。
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1. 人が眠る理由と、睡眠の3つの役割

人が眠る理由の有力な仮説の1つが、井上昌次郎先生が述べた説です。

つまり睡眠の役割とは大脳を守り、修復し、よりよく活動させることである。発育初期には大脳を創り育てる役割もある。

(引用:『ヒトや動物はなぜ眠るのか』 井上昌次郎著)

つまり、睡眠の役割は以下の3つです。

  1. 脳を創り育てるため
  2. 脳を守り、修復するため
  3. 脳をよりよく活動させるため

極論すると脳のためとも言えます。ただ、「脳を創り育てる」と言われても、どういうことかピンと来ないと思うので、これら3つの点について具体的にどういうことなのか深掘りしていってみましょう。

①脳を創り育てる

幼少期の眠りは質・時間ともに大人のそれと大きく異なります。

というのも、生まれたばかりの段階では世界の全てが真新しいため、感じ取る情報の全てを処理しなければなりません。そのため、脳を創り育てるための活発なレム睡眠(厳密には動睡眠)が半分を占めます。

動睡眠は発育途上の脳のなかで、神経回路つまりハードウェアを構築し、試運転し、整備点検するのに利用されている。つまり、まだ覚醒していない構築中の大脳を覚醒させるためには、このような「眠り」が必要なのである。

(引用:『ヒトや動物はなぜ眠るのか』 井上昌次郎著)

と、実際に、睡眠が脳を構築していくのです。

そして、生誕時には50%だったレム睡眠も、4ヶ月前後で40%、1歳前後で30%、2歳前後で25%、5歳前後では20%とどんどん割合は減っていき、次に説明するノンレム睡眠の割合が増えていきます。

sleep-changes-by-aging
レム睡眠の割合は徐々に少なくなっていく

②脳を守り修復する

日中、頭にいろんな情報が入って来ますよね。それと同時に、老廃物も溜まっていっているんです。そのため、脳は睡眠中に大量の情報や老廃物を処理しなければなりません。

脳ってグレードなエンジンのような存在なんですね。全体重のたった2~3%程の重量しかないのにもかかわらず、安静時であっても体全体の約18%ものエネルギーを消費しています。特に大脳は、脳の進化過程の中で最も新しい脳であり、莫大なエネルギーを消費し老廃物を多く出します。その機能を維持するために休息(睡眠)が必要となるのです。

さらにいうと、「グリンパティックシステム」という脳の掃除がノンレム睡眠中に行われています。起きている間に脳内に溜まった老廃物(アミロイドβ)がノンレム睡眠中に流されやすくなっており、情報処理するための環境整備がされているのです。

ちなみに、老廃物(アミロイドβ)が溜まることで認知症になると言われています。このようなことから、短い昼寝をすると老廃物がこまめに排出され、脳が守られる(認知症予防)のではと推察出来ます。

③脳をよりよく活動させるため

脳をよりよく活動させる、これを分かりやすく言うと、脳に定着させた情報を重要度で分けたり、それらの情報とイメージを結びつけて頭の中で整理整頓していることと言えます。

この考えをまさに裏付けるような実験があります。ドイツのリューベック大学神経内分泌学部の研究チームの報告により、睡眠が洞察力を高めることが明らかにされています。

研究チームは、一見難しいが隠れた法則性に気づくと解ける問題を、以下の3つの条件の異なるグループ(1グループ22人)に取り組んでもらいました。

A:「朝に3回、問題の訓練を行う」→「8時間起きたまま」→「夜に問題を解く」
B:「夜に3回、問題の訓練を行う」→「8時間起きたまま」→「翌朝に問題を解く」
C:「夜に3回、問題の訓練を行う」→「8時間眠る」→「翌朝に問題を解く」

つまり、グループCだけが問題に取り組む前に睡眠をとっています。その結果、以下のグラフが示すように、各グループ内の正当者率に大きな違いが現れました。

睡眠が洞察力を鋭くする
睡眠が洞察力を鋭くする

法則性を見抜き正答する人の割合が、グループCに圧倒的に多く現れました。他のグループに比べて、倍以上の正答率です。

睡眠を通して得た情報が整理整頓されて脳がよりよく活動できた結果、学習パフォーマンスが向上したと考えられます。


2. 睡眠が不足すると機能が低下する

「幼児から睡眠を奪うとどうなるか」などという悪魔のような実験は記録にはありませんが、もし幼児段階で睡眠が妨害されたり欠如すると成長に深刻なダメージを与えるのは言うまでもないでしょう。

しかし、若年から壮年世代での睡眠不足は広く一般化しています。睡眠が足りなくなると脳の修復が十分でなくなり結果として以下のような症状が現れます。

・集中力の低下
・苛立ちやすい
・理解力・判断力の低下
・日中の強い眠気
・病気になりやすい

国立保健医療科学院が行った調査によると、日本の成人3,030名の内15%が日中に眠気を感じていると答えていたことから、当人が気づかないレベルでの睡眠不足も含めると相当数の日本人が睡眠不足状態に陥っていると考えられます。


3. 睡眠不足がもたらす莫大な社会的損失

日本人の生活はここ数十年間でどんどん夜型化し、睡眠時間も全体で1時間程短くなっています。それと同時に、睡眠不足症状に陥っている人が増え、その結果として、大きな損失が発生していると報告されています。

このような睡眠不足に起因する作業ミスや事故の発生は多くみられ、その社会的損失は、我が国では年間3兆4千億円に達するとの試算もあります。

(引用:『医療・看護・介護のための睡眠検定ハンドブック』宮崎総一郎・佐藤尚武 編著)

これは、毎年オリンピックを開催できてしまうほどの金額ですが、睡眠不足による居眠り事故などで失われた人命を考えると損失はさらに甚大です。

睡眠不足なんて何気ないものと思われがちですが、大変な危険を孕んでいるのです。


最後に

なぜ人が眠るのか、その理由は以下の3つです。

①脳を創り育てるため
②脳を守り、修復するため
③脳をよりよく活動させるため

是非これからは、「疲れたから仕方がなく眠る」のではなく「よりよい明日のために積極的に眠る」ように心がけてもらえると光栄です。

もしあなたが「今まで睡眠を蔑ろにしていたな」と思う節があれば、まずはあなたに必要な時間だけ十分に眠るように心がけましょう。そして、その上で質の良い睡眠を取れるように生活習慣を改善していきましょう。

なお、以下のページでこれまで紹介してきた、数々の研究で実証された良質な睡眠のために「するべきこと」と「してはいけないこと」を網羅的にまとめています。美味しいところ(結論)だけをつまみ食いできる構成になっています。是非ご一読ください。

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