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【睡眠時間の理想】適切な長さを計算する方程式

——適切な睡眠時間は人それぞれです。

睡眠の専門家のこのような発言を聞いて「いや、そんなことは分かってる。なんでも十人十色だ。だからその上で、個々人にとって適切な睡眠時間をどうやったら推し量れるのか分かりやすく説明しろよ!」とイラだったことはないでしょうか。

お気持ち察します。

ということで本日は「【睡眠時間の理想】適切な長さを計算する方程式」をご紹介します。

論文や研究データの引用などかなり細かな説明が多くなりますが、最終的にはストンと理解していただけるはずです。

※睡眠の質を上げるための方法をこちらのページ「睡眠の質を高めるための方法(総まとめ編)」でまとめています。ぜひあわせて参考にしてください。
著者情報
加賀 照虎

加賀照虎(上級睡眠健康指導士)

上級睡眠健康指導士(第235号)。2,000万PV超の「快眠タイムズ」にて睡眠学に基づいた快眠・寝具情報を発信中。NHK「あさイチ」にてストレートネックを治す方法を紹介。
取材依頼はお問い合わせから。
インスタグラムでも情報発信中⇒フォローはこちらから。


1. あなたにとって適切な睡眠時間を考えるための方程式

結論から言いますと、適切な睡眠時間とは下記のようにして考えられます。

  • 満腹睡眠時間 – 適度な睡眠圧を生むための時間 = 適切な睡眠時間

なお、この方程式も満腹睡眠時間という言葉も私が考えたものですが、この考え方自体は睡眠界の世界的権威ウィリアム・デメント教授の教えに基づいています。

この実験(睡眠負債を無くす実験)からは、もうひとつ重要な原則が明らかになった。それは、眠りを効率的に得るために、多少の睡眠負債は必要だということだ。睡眠負債が少なくなるにつれて被験者が寝つくまでの時間は長くなった。

(引用:『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』 ウィリアム・C・デメント 著)

つまり、十分満足に眠ったと思えるまで眠る(満腹睡眠時間)と眠り過ぎになるので、眠りに対する欲求が強まるように若干短くする(適度な睡眠圧を生む時間)と、それが適切な睡眠時間になるのです。

「適切な睡眠時間」の概念についてはご理解いただけたかと思います。

それでは次に、「満腹睡眠時間」と「適度な睡眠圧を生む時間」はどうやったら分かるのか、についてそれぞれ具体的に説明していきます。

1−1. 睡眠負債がなくなり満足に眠った時間 = 満腹睡眠時間

いきなり今日、時間を確保してがっつり長時間眠ったところで満腹睡眠時間は分かりません。

というのも、誰もが睡眠負債を多かれ少なかれ抱えているため、睡眠負債を帳消しにするために満腹睡眠時間に加えて睡眠負債の利子分まで眠ってしまうことになるからです。

It-takes-3-weeks-to-pay-back-the-sleep-debt
睡眠負債の返済には3週間かかる

ウィリアム・デメント教授の実験によると、二度寝・三度寝OKで眠れるだけ眠るようにしてから3週間目にやっと、人は睡眠負債を返しきって睡眠時間が安定すると報告されています。

当初、これが適切な睡眠時間かと考えられましたが、先にあるように眠れるだけ眠ると寝つきが悪くなったり夜間目が覚めてしまい、睡眠の質は悪くなることが実験の中で分かったそうです。満腹がダメなのと似ていますよね。なので、この状態を満腹睡眠時間と名付けました。

3週間も時間を確保するのは難しいかもしれませんが、連休などを利用してまずはあなたの満腹睡眠時間がどれくらいなのか把握しましょう。多くの人は7~8時間の間に落ち着くはずです。ちなみに私も8時間15分前後でした。

■たくさん眠っても日中の眠気がひどい場合
もしかすると睡眠障害を抱えている可能性があります。Q&Aによるチェック方法をこちらのページで紹介していますのでお試しください。

1−2. 夜の眠気・寝付きから「適度な睡眠圧を生む時間」を求める

さあそして、あなたの睡眠時間が満腹状態になると、以下のような問題を感じるはずです。

  • 夜なかなか眠くならない
  • 就寝時刻がどんどん遅くなる
  • 寝つきに時間がかかる
  • 夜中に目覚めることがある

このような状態になったら次のステップです。睡眠時間を15分削って調整してみましょう。

例えば、あなたの満腹睡眠時間が大体8時間なら睡眠時間を7時間45分にしてみます。こうすることで若干の睡眠負債が生まれて眠りに対する欲求が強まるため、寝つきが良くなり睡眠の質を高められます。この際、睡眠時間が適切かどうかは、ベッドに入ってから眠りに落ちるまでの時間(専門的には入眠潜時と呼びます)を指標にしましょう。寝付くまでの時間が10~15分前後だとベストです。20分以上かかるようならまだもう少し睡眠時間を削りましょう。反対に、5分以内に眠れるようなら睡眠時間をもう少し長くしましょう。

これであなたにとっての理想的な睡眠時間が割り出せたはずです。

ただ、気をつけなければならないのが、生活習慣で寝つきが悪くなってしまうことです。例えば、カフェインの作用で寝つきが悪いのに、睡眠時間を削ってしまっては本末転倒です。これについては4章の注意点を参考にしてください。


2. 理想的な睡眠時間とは。理想と現実(適切)

あなたが睡眠時間を最適化する上で知っておくべき事実についてご紹介します。頭に入れておきましょう。

2−1. 個々人でそれぞれ異なる理想的な睡眠時間

適切な睡眠時間は人により異なります。他人とあなたを比較しないようにしましょう。

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理想的な睡眠時間のアンケート

ほとんどの人は7時間半前後が理想的だと感じている結果となります。

その一方で、1日3,4時間の眠りで十分なショートスリーパー(短時間睡眠者)や1日10時間以上の眠りを必要とするロングスリーパー(長時間睡眠者)も存在します。数百人に1人、もしくは数千人に1人の確率とも言われています。これは遺伝子レベルでの違いの話です。訓練したらなれるものではありません(遺伝子編集技術により将来的には可能になる可能性もありますが)。

なお、サンディエゴ大学の報告で、ショートスリーパーやロングスリーパーには睡眠の問題を抱える人が多いというものですが、このような調査で言及されるショートスリーパーなどには本来的なショートスリーパーではなく、睡眠が悪かったり、精神状態が不安定だったり、多忙だったりすることから消極的にショートスリーパーになっているだけの人も含まれます(むしろ私は多数だと思います)。

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睡眠時間別の不眠の訴えは大体このようにU字となる

正しい詳細なチャートは上記のリンク先からご覧になってください(こちらのチャートは目安です)。

2−2. 同じ人でも年齢により睡眠時間は変わる

また、必要とする眠りの量は年齢によっても大きく変わります。個人差こそありますが、一般的には以下のように加齢とともに睡眠時間は短くなっていきます。

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人の睡眠時間は加齢により短くなる

睡眠のよくある悩みに「昔のようにぐっすりと長時間眠れなくなった」というものがありますが、このような生理現象としての一面もあるので仕方のない部分もあります。

「適切な睡眠時間」に対して理想を追い求めすぎないようにしましょう。

2−3. 季節にも影響される睡眠時間

個人差こそありますが、季節によって環境(主に、日照時間や気温)が変わるため睡眠時間も変わります。一般的に7~8月に短くなり、11~12月に長くなります。理由は諸説あるのですが、

  • 夏期は日照時間が長くメラトニンが多く合成されるから
  • 夏期は早朝から気温が高いので目覚めやすいため
  • 冬期は日照時間が短くメラトニン合成量が減るから
  • 冬期は寒さのため体が疲れやすいため

あなたの体のことはあなたが一番詳しいはずです。睡眠時間を適切にしておく上で、これらの変化であなたの眠りに現れる変化に気をつかってみましょう。

2−4. 7時間前後の睡眠時間がもっとも健康的とのデータ

平均すると睡眠時間は7時間前後だともっとも健康的だというデータがあります。

Hours-of-Sleep-And-Death-Rate
睡眠時間と死亡の危険率

睡眠不足だと健康に悪いのは言うまでもありませんが、眠り過ぎも良くありません(こういうデータ内には病気のため睡眠が長くなっている人も含まれるので多少割り引いて考える余地はありますが)。

興味深いのは2−1で紹介した「みんなの理想の睡眠」が最大多数を占めていたのが8時間の割に、もっとも健康的な睡眠時間が7時間前後となっているところです。このような観点からもやはり、理想(満腹)よりもやや短めの睡眠時間が適切なのではないかという仮説が真実味を帯びてくるのです。


3. 睡眠時間についてよくある間違い

もしあなたが睡眠について間違った認識を持っていたら正しましょう。

3−1. 「22~2時が最適な睡眠の時間帯」説が正しくない理由

いわゆる「睡眠のゴールデンタイム」を「睡眠中で成長ホルモンが活発に分泌されるとき」と定義すると、それは「入眠から約3時間の間」となります。

成長ホルモンは、1日の中で1~3時間ごとにスパイク状に分泌されますが、第1睡眠周期の徐波睡眠中に分泌量が最大となります。

(引用:『医療・看護・介護のための睡眠検定ハンドブック』宮崎総一郎・佐藤尚武 編著)

Sleep-cycle-during-night
睡眠のゴールデンタイム

なので、22~2時を意識しすぎる必要はありません。

3−2. 「睡眠時間は90分周期で刻むべし」説も正しくない

90分というのはあくまで平均です。

…81分から100分までの周期は全体の41.9%で、残りの約60%は90分周期からは、ずれているのです。

(引用:『睡眠のトリビア2』宮崎総一朗、北浜邦夫、堀忠雄 編著)

さらに、睡眠サイクルの周期が毎日同じとも限りません。なので、睡眠時間を90分周期で区切ってもあまり意味がないのです。


4. 睡眠時間を最適化する上での注意点

眠くなるべきときに眠くなれるよう下記のことに注意しましょう。

  1. 午前中に光を浴びる:体内時計がセットされ、夜になると睡眠ホルモン「メラトニン」が分泌されてきちんと眠くなるようになります。
  2. 夜間は強い光を浴びない:夜間の光はメラトニンの分泌を阻害して眠気を遠ざけるので避けましょう。
  3. 就寝時に体温を下げる:眠るときにスムーズに体温が下がるように調整しておくと寝つきが良くなります。反対に、体温が高いままだと寝つきが悪くなります。
  4. リラックスする:就寝1時間前から脳を落ち着かせましょう。ゲームや動画などは控えましょう。
  5. 日中の仮眠:20分以内で就寝の9時間前まで終えようにしましょう。これ以上となると疲れと取り過ぎてしまい、夜間の寝つきが悪くなったり眠りが浅くなります。
  6. 飲酒:就寝3時間前に終えましょう。寝つきは良くなりますが、睡眠を浅くしてしまいます。
  7. カフェイン:夕食以降は控えましょう。寝つきを悪くしたり、眠りを浅くします。

最後に

ご紹介の内容であなたの睡眠時間は適切になったことと思います。

睡眠時間が適切になれば次は睡眠の質を高めましょう。以下のページでこれまで紹介してきた、数々の研究で実証された良質な睡眠のために「するべきこと」と「してはいけないこと」を網羅的にまとめています。美味しいところ(結論)だけをつまみ食いできる構成になっています。是非ご一読ください。

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